「サクラさん・・・」

「何?リョウ君。」

「あの・・こんなこと言っていいのか分かりませんけど・・。」

「どうぞ、どうぞ、遠慮なく。」

「僕たち、何でこんな所にいるんでしょうか・・・。」

 

サクラはため息をつくリョウを横目で見て、一言。

「さぁ?」

と、微笑んだ。

 

そろそろだろうかと空を見ながら。

 

 

第二十章 〜結集〜

 

「レオナさん!」

町の出口に立つレオナに、少女は駆け寄りながら声を掛ける。

少女の高く、1つにくくった蒼い髪が揺れる。

レオナの肩に乗っていた金色の鳥、クロードも少女の方に視線を移し微かに微笑んだ。

「すみません・・少し、遅れました。」

息を整えながら少女、ルカ・ネオタールはレオナに微笑みかける。

レオナはそれを見ると、「そんなに遅れてはいないわ。」と一言。

ルカは昨日とは別の服装だった。

白のローブを羽織り、中には薄い茶色のワンピースを着ている。

ワンピースといっても、旅装用のものなので動きにくいという訳ではなさそうだ。

 

「あ!そうだ、レオナさん!!」

そう言うと彼女は立ち止まり荷物の中をごそごそと何かを探し始めた。

あれ、どこに入れたっけ・・と呟きながら手をつっこんでいる。

レオナはそれを、半ば呆れた目で見ていた。

行動が・・・どんくさいような気がする・・・と。

「あった!」

ルカは一つ包みを取り出すとそのままレオナに手渡す。

「・・・何?」

「お菓子です。うちの団長の、手作りなんです。」

レオナは自分の手にあるブルーのラッピングされた包みに視線を移す。

「団長が、レオナさんにって。」

ルカを見ると、目が少し赤い。

しかし、腫れてはいないから泣いたわけではなさそうだ。

おそらく昨日の夜、レオナと別れた後に団員たちと遅くまで話し合ったのだろう。

「中身はなんだい?」

質問したのはレオナではなくクロード。

「カップケーキです。おいしいですよ。」

ルカは鳥がしゃべった事に一瞬驚いたが、

昨日レオナと別れる時クロードの事を聞いた事を思い出し、ほっと息を吐いた。

「だって、レオナ。よかったね。」

クロードはレオナを見上げる。

「別れの挨拶は・・終わったの?」

レオナはケーキの事には触れず、ルカに問う。

「はい。昨日、レオナさんと別れたあと皆と話し合いましたから。大丈夫です。」

そう言ってルカは荷物の口を閉めた。

「・・・どうかしましたか?」

レオナが自分を見つめているのに気づき、ルカは首を傾げる。

「・・・本当に、いいの?」

「え?」

「旅をして・・本当にいいの?」

彼女が言った意味はすぐに理解できた。

ルカが、旅をすることが怖いと言ったことを言っているのだ。

本当に、出発してもいいのかと。

一歩踏み出せば、日常とかけ離れたものになる事は明らかだから。

 

「心配してくれてるんですか・・・?」

ルカは思わず口に出す。

昨日、初めて会ったとき、無表情に近い彼女の表情に不安になったりした。

戦闘が終わって、掛けてくれる言葉もどこか冷たくて、抑揚がなくて、

淡々と事実を話すその言葉にどこか恐怖を覚えた。

でも、彼女がさっき自分に掛けてくれた言葉は相変わらず冷たい響きを持っていたけれど、

自分に対する気配りが感じられたような気がしたのは気のせいだろうか。

自分の勘違いかもしれない、でも何だかルカは嬉しかった。

 

ルカの言葉を聞き、レオナは一瞬眉をひそめる。

しかし、すぐに元の表情に戻り「別に、そんなんじゃないわ。」と言った。

「大丈夫です。」

ルカは彼女に言う。

「って言ったら嘘になりますけど、一度決めたことだから。精一杯頑張ります。」

それを聞いてレオナは「そう・・。」と呟いた。

しかし、肩に乗っていたクロードは彼女が小さく微笑んだのを見逃さなかった。

 

「レオナ・・」

「何、クロード。」

肩に止まっている彼に視線を移す。

「友達ができそうだね。」

小さな声でクロードは囁いた。

ルカに聞こえない小さな声。

「!」

レオナはかすかに目を瞠る。

ルカに視線を戻すと彼女には聞こえていなかったようだ。

 

 

 

町の出口の門をくぐる。

しばらく無言で歩いていたが、ふいにレオナは口を開いた。

「さっき・・・ありがとう。」

ルカは驚いて彼女を見る。

「・・・え?」

「あれ。」

暫くルカは考える。・・・あれ?

「あ、お菓子・・ですか?」

レオナは黙ったまま先を進む。

無言は肯定のようだ。

「どういたしまして。」

にっこりと微笑む。

 

 

 

昨日の夜、団員の皆と話したときの団長の言葉が蘇る。

「ルカ、笑顔を忘れないで。ルカの笑顔はとても素敵だから。信じる心を忘れないで。

皆はそうするとお前の考えは甘いと笑うかもしれないけど、お前だけは自分を相手を信じるんだ。

そうすれば、世界中がお前に味方してくれるから。」

 

「世界中?」

 

ルカは団長の言葉が可笑しくて笑いながら言った。

しかし、団長は微笑みながらも真剣な目で彼女に言う。

 

「そう、世界中。お前が自分と皆を信じている限り、世界がお前に味方してくれるよ。」

 

彼の言葉の意味はよく分からない部分もあったけど、ルカはしっかり頷いた。

団長は優しく彼女を抱きしめる。

 

「辛くなったら、歌ってごらん。そして、私たちを思い出してくれ。私たちは、家族だ。」

 

「はい・・・。ありがとう・・・言ってきます。」

 

涙が出そうになるのを堪えてルカは笑った。

 

団員は、いや、家族の皆は私の笑顔が好きだと言ってくれたから。

 

 

 

 

 

 

後の歯車・・リョウ達には合流できるだろうか。

リョウ・コルトットとサクラ・セオドリオール。

ルカ達は彼らに嘘をついて自分から遠ざからせた。

今頃、彼らは自分たちが教えた場所にいるのだろうか。

それとも、もうどこか別の場所に・・。

 

 

しかし、彼女の考えはすぐに撤回された。

先に見える橋にもたれかかっている人影が見えたのだ。

近づく度にその人影が大きくなる。

少年だ。

黒髪に紺色の瞳。

こちらには気づいていないようだ。

まさか・・どうしてここに・・・。

その隣にはグレーの髪に、オレンジいろの眼鏡をかけた青年の姿も見える。

間違えるはずはない。

彼だ。

ルカに勇気を出すきっかけの言葉をくれた少年。

思わず、駆け出す。

 

「リョウ!!」

 

その声を聞き、少年は声の方に顔を向けた。

その表情は驚きを隠せないようだ。

 

「ルカ!?」

 

彼の隣でサクラが微笑む。

 

 

 

 

駆け出すルカを見ながらレオナは呟いた。

「クロード・・」

「何?レオナ。」

「私に友達なんて必要ないわ。」

「・・・。」

「変な事、言わないで・・。」

「そうか・・・ごめん。」

そう言いながら、クロードは小さく息を吐く。

友達なんかいらない・・・そう思うなら、どうして彼女と話した時、微笑んだ?

どうして、彼女からお菓子を貰ったとき嬉しそうにした?

彼女には見えなくても、僕には、分かったよ。

ずっと一緒にいたんだから。

 

友達なんかいらない・・そう思うならどうして今、そんなに悲しそうな顔をするんだ?

レオナ・・・。

 

 

 

 

歯車、ここに結集。

 

 

 

 

 

第二十章 〜結集〜  Fin